8 May 2007

This is England

This is England by Shane Meadows 2006, UK

サッチャー政権下多大な失業率そしてフォークランド紛争と悩める時代の80年代イギリス。10歳の少年ショーン(Thomas Turgoose)は父親をフォークランドで亡くし母親(Jo Hartley)とイギリス北部の低所得者住宅で暮らす。ある日学校の帰りに道ばたでスキンヘッドのグループと出会い行動を共にするようになる。刑務所から帰って来たコンボ(Stephen Graham)の登場によりグループはバラバラとなる。コンボは失業そしてイギリスの退廃の原因は移民のせいだとし超ナショナリスト、移民排斥を掲げ、地域のパキスタン人コミュニティーを恐喝する。コンボに父親の像をみつけたショーンはこのラディカルのグループの一員となっていく。

期待して観に行ったがはずれの作品であった。このショーン少年の半分子供で思春期の悩める姿はなにげなくかわいらしく共感を引き出すものはあったが他の要素は現実とはかなりちぐはぐ。コンボが出所後初めてグループの前に来た時「Been to pen for 3 years」(刑務所に3年間いたんだ)の台詞、penとはpenitentiary、ちょっと待て、イギリスではpenとは言わないだろ、これは完璧アメリカ英語。それにスキンヘッド達がハグしたり拳をおたがいにかざしたり、あれっ、これも絶対にありえない!完全にアメリカヒップホップカルチャーの動作。この映画の中のスキンヘッド達はとてもいいやつで描かれているが、回りのイギリス人曰く、こんなソフトなスキンヘッドなんて嘘、当時道ばたでスキンヘッドがいるとトラブルを避けるためにわざわざ遠回りしたと言ってるし、イギリスはホント暴力的なけんかが耐えない国。フーリガンの発祥地といえば理解してもらえるでしょうか。という訳で話も多少ながらソフトになり、ノスタルジックぽく描かれてしまいました。監督のShane Meadowsを調べてみると、やっぱり生まれは70年代、それじゃああんまり分かってないだろーと変に納得。しかしながらこの作品、題材はいいからもう少し深くえぐって、登場人物ももっと丁寧に作ってもらいたかった、残念でした。こういう映画を見ると「善き人のためのソナタ」のような作品が偲ばれます。

この週末から公開された「スパイダーマン3」の興行成績がアメリカ国内この週末だけで$59ミリオンと過去最高の興行成績だそうです。ロンドンでも「スパイダーマン3」を公開しているシアターの前にはティーンがうじゃうじゃ。私のテイストじゃないので、これは飛行機の中で見る事にしようと思います。

14 comments:

Anonymous said...

さすが、米国と英国の両方をよく知っているCCさんならではのレビューですね。当時の私にはなぜフォークランド紛争が起こったのか良く分かりませんでしたが・・・それはさておき、当時の英国は大分荒れていたようですね。映画の中でも超ナショナリストが出てくるとか。ブレア政権退陣ということで、最近英国の情報が結構入ってきますが、この10年間でも移民の数が年間32万人から56万人に増えたとか。移民の問題ってかなり深刻なんでしょうね。

claudiacardinale said...

JTさん、ロンドンに初めて来た時移民の多さにびっくりでした。インド、パキスタン系の人が多い!インドが過去イギリス植民地だったんだと改めて感じました。なので美味しくて安いカレー屋が多いです!その次はアラブ系。ブルカを着ている女性もよく見かけますよ。確かイギリス移民の70%がロンドン周辺に集中していると何かに書いてあったような。
NY特にマンハッタン内はプエルトリコ人をはじめとするヒスパニック系が断然多いです。ウエストサイドストーリーそのものです。メキシコ人も多いかなぁ。
日本も移民が多くなりましたよね。

Anonymous said...

こんにちわ
昨日初めて、この映画をDVDで観ました。期待してたものとは全く違う本作品にビックリしました、そして完成度のの高さにも。
私的にはこの監督、この映画のためにかなりリサーチをされていたようにみえました。本当の80年代のイギリスを描いていると思います。
下記のレビューを書かれている方のHPを見ていただけると面白いかもです。
http://playlog.jp/otonano-1980/blog/2007-05-07

claudiacardinale said...

名無し様、はじめまして。コメントありがとうございます。頂いたHP見ました。面白い内容でした。私は80年代はアメリカだったのでその当時のイギリスは殆ど知りませんので個人的にはなんともいえないのですが、私の周りのイギリス人の意見を私のコラムには反映させて頂きました。この作品辛口というよりも、多分監督が当時の若かった頃をノスタルジア的に描いた様に思います。今この作品の後味を思い出すとどちらかというと暖かい感じです。

Anonymous said...

はじめまして。イギリス在住のものです。
私はこの映画、この年イギリスで一番の名作と感じました。
このコンボ役の人はリバプール訛を話してますよね。
北部のイギリスでは文法はけっこうめちゃくちゃです。
ダブルで否定語を使ったりするのもアメリカ的ですが、
北部ではけっこう聞かれます。
この監督もミッドランズの出身でイギリス人ですので、もちろん言語には造詣が深いと思います。
スキンズの間でのジェスチャーに至ってはちょっと言語道断です。。。ヒップホップって。。。
絶対にありえないってそんな表現をするあなたがあり得ない。ignorantすぎます。
そしてもちろんスキンズもナショナリスティックな方向にガンガン行った人と、そうでない人がいました。
それはこの映画の中でうまいこと描かれていますし、イギリスの音楽のヒストリー上でも常識です。
ラッパーが全員ギャングスターでないのと同じことです。
イギリスはクラス社会なので、同じ国民でも知らない・見えない所はいっぱいあります。
わたしはミドルクラス・特権階級・観光的ステレオタイプのイギリスよりも生々しいイギリスにエネルギーを感じるので、この映画は素晴らしいとおもいました。まさにイギリスの現実を切り取っていると思います。だからこそTHIS IS ENGALANDなんだと思いますよ。
英国のことをよくお知りのようですが、だとしたらこんなレビューは書けないと思います。
辛口コメント失礼いたしました。
でも読んでいてあまりにもビックリしたもので。

claudiacardinale said...

aikoさん、こちらこそはじめまして。
ここには載せてませんが、この記事に対する反論いくつか頂きました。殆どが罵詈雑言的なもので載せるにあたいしないのでここには記載していませんが。まあ人それぞれの意見、多様してますのでそれなりに皆さんのおっしゃる事も聞いてます。でも皆さんの思い入れが深い事に改めて気がついた次第です。まあ私はNY育ちでイギリスに住んで4−5年、この時代をイギリスで経験していないので第三者的にとらえているからその部分で違いが出てくるのでしょう。

勿論1をみて10を知るという事はありません。私が述べているのはあくまでもこの作品の中での設定です。この作品、あともう一歩欲しかったというのがこの部分でしょうか、ノスタルジー化しているのがいとめませんでした。まあこれは見る人の感性の違いからくるのでしょうが。この作品再度みたらaikoさんのおっしゃる様、新しい観点で違った面に気づくかもしれません。

Anonymous said...

時代、もあると思いますがイングランド北部というのは住んでみないと理解できないと思います。私は、イングランドの北部に「理解」の価値がないと判断して南に引っ越すことにしましたが。

私も長くNYやSFに住んでいたので、ただただその場所に生まれたからそこで息をして、そこで虫のように生きているだけ、という感覚。かなりの途上国、第三世界以外でそういう人々を現在でも目の当たりにさせられるのがイギリス北部です。

たとえばロンドンとNYに住んでいる人たちが出会う機会があっても、イギリス北部に住む人とロンドンに住む人は恐らく交わることがないだろうという程に、イギリス北部は想像を絶する空間だと私は考えます。

イギリス北部しか知らない日本人と会っても、知っているイギリスがまったく違うので話が通じないことがあります。

そして、イギリス北部しか知らない人は外国人であったとしてもイギリス北部の地元の人と似てくるらしく、イギリス北部の外の人の感覚、というのをresentしだします。

この作品を再度見てみる、というよりも、イングランド北部に一度足を運ばれると違ったところが見えてくるかもしれません。

Anonymous said...

すすすみません、上のコメントで変な部分がありました。「私もNYやSFに住んでいたので」虫のように惰性で生きている人たちしかいない感のあるイングランド北部のいちおう大都市に住んで、こういう感覚はいわゆる途上国でしか感じたことのないものだと感じ、驚いた、ということを書きたかったのでした。

NYやSFベイエリアがアメリカの中でも特別な場所であるように、ロンドンと南部もやはりthe rest of Englandとは違った空間です。

「ほんとうのイギリス」を知らなければという軽い気持ちで北部で働いてみたものの、実際にThis is England。なイギリスが残っている場所に暮らすと、別にほんとうのイギリスを知る必要なんてないじゃんと思えます。

それは、Upstate NYに住んでみて「別に、このNYは知らなくてもいいや」と結論付けるのと似ているかもしれませんし、また日本でも、おかしな因習が残る排他的な過疎の村にわざわざ東京から行かないのと同じことかもしれません。

この映画はいわゆるgrowing upモノで、最後に少年がイングランドの旗をドブ(でしたっけ?ありゃ?海?)に捨てることでお茶を濁してしまっていますが、あれでオチがついたと感じるいい加減さ、テキトーさがイギリス人の大半の人間の知的怠慢さと呼応していると思います。

私もこれは、詰めが甘い映画だと思いました。北部の人間にとってレイシズムや貧困は80年代で終わってはおらず、今底にある問題として存在しています。そこを詰めずにノスタルジア映画にしてしまっているところが、イギリスでそれほど反響のなかった理由ではないかと思います。

「なまなましいイギリス」に私は全くロマンを感じません。ロマンを感じるほど甘いもんじゃないし、もっともっとdisturbingなものだからです。そこを半端にロマンティサイズした映画になってしまっているのではないかと感じました。何度もごめんなさい。調子にのってしまいました…。

claudiacardinale said...

イギリスの地方都市は仕事で数回しか行った事がないのでロンドンとの違いはあまり把握していませんが、アメリカと同じく大都市と地方都市/田舎とでは性格が違っているのでしょうね。仕事上アメリカでは様々なコミュニティーを見る機会が多くありましたが、aikoさんの意見を聞くと、イギリスの方がアメリカとはまた違う空気が流れているような気がします。多分国民性の違いもあるのでしょう。

Anonymous said...

日本での公開が決まったようです!
http://www.thisisengland.jp/

Anonymous said...

はじめまして。
This is Englandについて検索していたらここに辿り着きました。
私も以前、Manchester, Londonに住んでいました。今は日本のある地方の田舎町に住んでいます。
コメントの中に『虫のように惰性で生きている人たちしかいない感のあるイングランド北部』と言われている方がありますが、確かにイングランド北部で感じた事はあります。が、ロンドンにもそんな人は数多くいますし、日本にだっていくらでもいますね。
見た目の豊かさが日本の方があるのでそう感じないだけではないでしょうか。

私は、イングランド北部、ハイランドもよく行きましたし、南西部にもいきました。
それぞれの場所に友達もいます。でも人それぞれではないかなと思います。

そしてレイシズムや貧困は北部だけでなく、英国全体に蔓延している病気です。
レイシズムや貧困は日本の地方にもかなり根強く残ってます。
こういう事を映画化する英国とそうしない日本の違いはあると思いますが、これはどこの国にもある話のはずです。

claudiacardinale said...

AviatorTさん、こちらこそはじめまして。
「This is England」に関して今でもコメントがちょくちょく入るのに驚いています。関心度が高い作品なのでしょうね。

おっしゃるようにレイシズムや貧困はどの国でもあるものですね。アメリカでの話ですが、ネイティブインディアン居留地を訪れた時はなにかしらショックを受けた覚えがあります。同じアメリカなのにここまで貧困とはと。イギリスをはじめ他の国々でもこの問題を目の当たりにして来ました。残念ながら日本の状況はまだはっきりとは見た事がないのですが・・・・。最近見た作品「The Class」はこれら貧困/レイシズム/移民問題をテーマにした作品です。是非お勧めします。

ss said...

若い頃skinsだった人に聞いてみたら、この映画のskinsは80年代だけど第一波は60年代後半から70年代にもいたみたいです。
つまりは80年代前半はmods,skisのリバイバルだったようです。
そして、地域によって多少違いがあるみたいですが、言葉や振る舞いもかなり現実的な表現がなされていると言っていました。
あとskinsには音楽的なもの、政治的?(ネオナチや人種差別)なもの、ファッションだけのもの、さまざまなグループが存在していたらしいです。

claudiacardinale said...

S.Sさん、情報ありがとうございます。実際私も詳しい事は全く知らないので、ちょっとスキンへズについて調べてみました処Wikiで見つけました。生憎日本語版を見ると「坊主」になってしまうのですが。
http://en.wikipedia.org/wiki/Skinhead