23 February 2017

Moonlight / ムーンライト

by Barry Jenkins 2016 USA

予算5百万ドルとハリウッドにしては低予算なこの作品だが、内容は濃いながらも詩的に描かれ映像も素晴らしいものであった。

アメリカ南部ゲットー出身ゲイの黒人少年が大人に成長していく姿をリトルと呼びつけられる少年、チロンと呼ばれる多感期の青年、黒人男性として見事に成長したブラックと名前は変化しているが一人の男性の人生を3段階で追っている。父親はおらず母親はクラック中毒、父親的存在として親しみを覚えた男性ホアンは母親にドラッグを売る売人と知り、学校ではいじめの的である。リトルの頃からいじめを受け、喧嘩を無理強いされた唯一心を開いた友人ケビンから暴行を受けるチロンは最終的に怒りが爆発、長年のいじめ相手を椅子でぶっ叩き警察行きとなる。長い間カラに籠っていたリトル/チロンが脱皮した瞬間である。その後肉体を鍛え強面でドラッグ売人となったブラックだが、久々にケビンに会う事により心の底にいる繊細なリトル/チロンが垣間見える、と状況はタフで過酷なのだが、その中で生き人々と触れ合う姿がとても印象的である。

全ての役者はとてもよかったが、その中でも父親的存在であったホアンを演じたMahershala Aliの表情が素晴らしい。またクラック中毒の母役のナオミ・ハリスもなかなかなものであった。

9 February 2017

Manchester by the Sea / マンチェスター・バイ・ザ・シー

by Kenneth Lonergan 2016 USA

突然兄が亡くなりニューイングランド・マンチェスターに向かうリー・チャンドラー(ケーシー・アフレック)。兄の一人息子16歳のパトリック(ルーカス・ヘッジーズ)を気遣いながら葬儀の手配など手配する中、兄がパトリックの保護者としてリーを指命していた事を弁護士から聞く。この出来事を通してマンチェスターを去ったリーの過去が徐徐に明らかになっていく。

一人の人間が背負うにはあまりにも悲惨な過去を持つリー。ニューイングランドの典型的な労働者階級が住む街で、登場人物の多くも厳しい人生を送って来た。と書くと暗い重い内容かと思えるが全く違った印象を残した作品であった。悲惨な状況でもクスッと笑える事はあるもので、それがこのティーンエイジャーのパトリックで描かれている。父親の死にあまり実感できていないのか無意識に現実を拒否しているのか分からないが、通常の生活、ガーフルレンドや友達と共有する時間をティーンならではのユーモアで描いている。またリーを演じたケーシー・アフレック、そして出番は少ないがリーの元妻ランディを演じたミッシェル・ウィリアムスも印象的であった。厳しい人生を送る人々を上手く丁寧に描いたためにその人達の弱さでもあり暖かい部分が反映された良質な作品であった。

5 February 2017

Bitter Lake / ビター・レイク

by Adam Curtis 2015 UK

ドキュメンタリー映画「ビターレイク」、ビターレイクとはエジプトのグレート・ビター湖であり、スエズ運河を挟んで地中海と紅海を結ぶ。イギリス人ドキュメンタリー監督アダム・カーティスがBBCにある素材を用いて、アメリカ、イギリス、ソ連、サウジアラビア、そしてアフガニスタンを過去30年に渡って描いている。50年代近代化を目指すアフガニスタンのインフラに着手するアメリカ、78年4月革命、冷戦、ソ連アフガン侵攻、イラン/イラク戦争、タリバン、9.11、イラク侵攻、イスラム国まで追っている。このドキュメンタリーの核は、各政府の思惑と陰謀そして西洋社会がイスラム過激派を善悪で簡素化説明した事により政府自体これから何が起こりえるのかが見えない闇の状態を生み出し、また何が起きてるのかが分からなくなっている現状にあるという事である。
この歴史を社会の流れと対象させ、またモザイクの様に映像素材を斬新に編集した。これによりダークにとても強烈な今までにないスタイルで、私の中に大きく影響を残した、とても興味深い作品となった。彼のもう一つの作品、「Super Normarization」も続けてみるつもりだ。

1 February 2017

Lion / ライオン 25年目のただいま

by Garth Davis 2016 Australia

インドの片田舎、5歳の少年サルーはいつでも兄のグデューと一緒。仕事に行ったグデューを駅で待つサルーはうっかり電車の中で居眠りをしてしまい終点カルカッタで迷子となってしまう。浮浪児となってしまったサルーは孤児院に引き取られ、そこでオーストラリア、タスマニアに住む白人夫婦に養子として引き取られる。成長したサルー、ある偶然にも昔好きだったインド菓子を見た時に失った実母と家族を探し出す事にかられる。

サルー・ブライアリーの経験に基づいた実話である。とても丁寧に作られ、ホロリと感情が上手く描かれている。5歳のサルー、泣いているシーンは全くないが朝起きて頬に乾いた涙が見られるのにはこちらも涙がほろりであった。白人夫婦にはニコール・キッドマン、あまり好きではない女優だが押し殺した感情表現がとても素晴らしかった。成人してからのサルーは「スラムドッグ・ミリオネラー」のデーヴ・パテール。「スラムドッグ・ミリオネラー」以来「マリーゴールド・ホテル」などで見ていたが、今までの彼とは全く違う容姿と雰囲気であった。嫌みがなく、また素晴らしい演出で久々に感動した作品であった。監督のガース・デイヴィスはこれが初めての長編映画とこれから期待出来る監督だ。

23 January 2017

Romeo and Juliette / ロメオとジュリエット

@ Metropolitan Opera House
作曲 : Charles Gounod
指揮 : Gianandrea Noseda
演出 : Bartlett Sher

メトロポリタンオペラハウスの新しいプロダクション「ロメオとジュリエット」、ブロードウェイの「サウスパシフィック」などでトニー賞を受賞し、渡辺謙が主演した「王様と私」のバートレット・シャーが演出という事で期待して行ったが、特別素晴らしいプロダクションという事もなく、どちらかといえば冒険もなにもない平坦なものであった。ロメオを歌ったVittorio GrigoloやマキューシオのElliot Madoreと若い歌手だったからのかやたら飛び跳ねてばかりの舞台でもあった。歌も演技も力がみなぎっていて、芸術的というよりは肉体的、延いては血の気の多い暴走族かチンピラの恋物語というのが似合っている舞台であった。

20 January 2017

Guess Who's Coming to Dinner / 招かれざる客

by Stanley Kramer 1967 USA

シドニー・ポワチエの代表作の一つ「招かれざる客」。「夜の大走査線」と同じく公民権運動が盛んな時期に大きく反響を読んだ作品である。第40回アカデミー賞やBAFTAでスペンサー・トレーシーやキャサリン・ヘップバーンが、またオリジナル脚本で受賞している。

リベラルの白人家庭出身の娘がいきなり黒人のボーイフレンドを実家に連れて来て数日後に結婚すると宣言したらどうなるだろう?マット(スペンサー・トレーシー)とクリスティーナ(キャサリン・ヘップバーン)夫婦のドレイトン家に娘ジョアンナ(キャサリン・ホートン)がボーイフレンドで優秀な黒人医師ジョン(シドニー・ポワチエ)を紹介、そして翌日には結婚するためスイスに行く事を告げる。人種の違いそしていきなりの決断を聞かされてドレイトン夫婦は狼狽、またジョンの両親(ビア・リチャーズとロイ・グレイン)もドレイトン夫妻と同じく戸惑いを隠し切れない。果たしてジョンとジョアンナは祝福されるのだろうか?その判断を数時間後に迫られた両家の話しである。

今日1月20日はアメリカ大頭領就任式、先程TVでライブを見たが2017年は時代逆戻りになってしまったようだ。まあよくいえばグローバリゼーションそして民主主義を考え直す時期がアメリカだけではなく、イギリスにせよ、今年各国で選挙が行なわれるヨーロッパにやってきた。人間は歴史から学ぶというが、決して後戻りする事だけはないことを願いたい。

19 January 2017

La La Land / ラ・ラ・ランド

by Damien Chazelle 2017 USA

今年の賞レースで多くの受賞を予想されているラ・ラ・ランド。批評家から絶賛されているが、どうも過大評価されすぎ感が拭えない。他に目立った作品がないからだろうか、早速ゴールデングローブなどで多くを受賞している。

ジャズミュージシャンのセバスチャン(ライアン・ゴスリング)、女優を目指すミア(エマ・ストーン)の若い二人の夢を追うミュージカル。話しは至って普通なのだからミュージカルの部分で期待したがどうも中途半端、学生映画を見ているような気分であった。唯一、ライアン・ゴスリングはとてもチャーミングに役を演じまたダンスパフォーマンスも素晴らしかった。

まあ今年初めての大失望映画であった。

9 January 2017

Poesía Sin Fin / エンドレス・ポエトリー

by Alejandro Jodorowsky 2016 Chile 


カルト映画の巨匠と言われるアレハンドロ・ホドロフスキー監督の新作、自伝的作品「エンドレス・ポエトリー」、故郷チリで詩人として人生を捧げる事を誓う若き青年アレハンドロ、圧倒的な圧力で息子を支配し医者となる事を押し付ける父親との葛藤中、前衛芸術家達との交流を経て自分自身を作り上げていく姿が写し出されている。この過程がアレハンドロの視点、虚実皮膜的に描かれており、まるで彼の脳みその機能を見ている様で、とてもユーモラスで笑いを誘い出すものがあった。見ている途中フェリーニの「81/2」を思い出させた。

当時シュルレアリスムは多くの芸術家を影響しそのパワーは計り知れない。何でもありの現在においても当時のクレイジーさには驚嘆するものが多い。概念、既存への反抗精神で行けるところまで行ってしまった。商業主義にまみれた現在においてこの作品の中の青春群像を見ているとある意味とても純粋な若者の精神に暖かいものを感じるのであった。

22 December 2016

Der Rosenkavalier / バラの騎士

@ Royal Opera House
作曲 : Richard Strauss
指揮 : Andris Nelsons
演出 : Robert Carsen

ロバート・カーセン新作、シュトラウスの喜劇「バラの騎士」。元帥夫人マリー・テレーズにレネ・フレミング、元帥夫人の17歳の愛人オクタヴィアンにアリス・クート、好色漢のオックス男爵にマシュー・ローズ。アリス・クートにはイマイチ違和感があったがそれ以外ではなかなか楽しめた舞台であった。オペラに行き始めた当初90年代、メトロポリタン・オペラ・ハウスでよくレネ・フレミングを聞いてた頃が思い出された。フレミングは2018年にリタイアするかもと言っているのでもしかしたらこれが最後のロンドンになるかもしれない。

12 December 2016

In the Heat of the Night / 夜の大捜査線

by Norman Jewison 1967 USA

この「夜の大走査線」は当時公民権運動が盛んであったアメリカで大きな反響を得た。アメリカ南部ミシシッピーの田舎町スパルタで夜中ビジネスマンが殺害される。たまたま同じ時刻スパルタの駅で電車を待っていたヴァージル・ティプス(シドニー・ポワティエ)は人種偏見の強いこの地でよそ者の黒人であるがゆえ殺人犯として署に連行されるが、ティプスはフィラデルフィア警察で一番の殺人捜査官であった。ティプスは署長のビル・ギレスピー(ロッド・スタイガー)とこの殺人事件捜査に加わる。

人種偏見だらけの田舎町、白人主義の価値観が自然と根付いているスパルタの街、この街の署長ギレスピーも典型的なレッドネックだが、捜査が進むにつれギレスピーとティプスの間にある軋轢が狭まって行く。一見ギレスピーの偏見に比重がおいてあるように見えるが、ティプスの中にある憎しみと偏見も見せる事によって、単に人種差別だけではなく同じ人間同士のぶつかり合いが描かれている。これがこの映画の深みを出している。

この映画が製作されたのが67年、この50年間の間に人種差別はなくなってきたように思えるが、この数年間でまた亀裂が広がり、パンドラの箱を開けたトランプ政権誕生によりヘイトが加速され、欧州でも極右の広がりを見せている。この作品をまたみるべき時代がきたと思うとむなしいものだ。

7 December 2016

Les Contes d'Hoffmann / ホフマン物語

@ Royal Opera House
作曲 : Jacques Offenback
指揮 : Evelino Pido
オリジナル演出 : John Schlesinger
再生版演出 : Daniel Dooner

オッフェンバック作曲、ジュール・バルビエ台本のオペラ「ホフマン物語」。詩人ホフマンが、人形のオリンピア、歌姫のアントーニア、そして娼婦ジュリエッタに恋をし、それぞれ見事に破綻した話しを飲み屋で語り笑い者とされる。とても面白いお話なのだが、このオペラにはお笑い以上の何かがある。

ホフマンには今年ローヤルオペラでデビューしたアメリカ人テノールのレオナルド・カパルボ。人形のオリンピアを歌ったソフィア・フォミナの演技は面白おかしく最高に楽しめた。

このオペラ、元々映画「真夜中のカウボーイ」の監督ジョン・シュレシンジャーが1980年に演出を行なったもの。多少アップデートされているが詳細に渡ってとても楽しめた演出であった。

30 November 2016

La Parisienne / 殿方ご免遊ばせ

by Michael Boisrond 1957 France, Italy

まさに「殿方ご免遊ばせ」と言わんばかりに周りの男どもを振り回すブリジッド・バルドー。フランス大頭領の娘ブリジッド(ブリジッド・バルドー)が大統領秘書官でプレーボーイのミッシェル(アンリ・ヴィダル)にぞっこん、ミッシェルはあまりにもしつこいブリジッドから逃げようとするが自身の女好き、身から出た錆、結局ブリジッドと結婚するはめに。結婚後も浮気性が治まらないミッシェルにブリジッドはフランスを訪問中で晩餐会で出会ったシャルル大公と浮気するとミッシェルに公言する・・・というブリジッド・バルドーの魅力を最大に生かしたお話。この映画の見所は彼女のいつものイメージであるファムファタールというよりも悪気のないコケティッシュでコミカルなバルドー、そしてなんといってもスクリーンに写し出される50年代のパリの街の背景。多分シトロエンなのかブリジッドが乗る赤いオープンカー、警官が乗るバイクのトライアンフ、エアーフランスの機体、アパルトモンのインテリア、ファッションなど見ていてとても楽しい。ブリジッド・バルドー、プロップ、ファッションが全てが絵になっている映画であった。

21 November 2016

Francofonia / フランコフォニア ルーヴルの記憶

by Aleksandr Sokurov 2015 Russia

ロシアのソクーロフ監督の新作、聡明な手法で、パリのルーヴル美術館を主人公とした。ソクーロフ監督がインタビュアー、そしてそれに答えるルーヴル。貯蔵される数々の美術品、美術館の歴史、そして美術品の歴史が語られ、まるでルーヴルが生き物のように描き出されている。またその語りがパズルのようにちりばめられ、後半でそれらが一つの絵として、話しが継ぎ合わさって行く。冒頭のシーンで、ソクーロフ監督がSkypeで嵐で転覆の危機にある美術品を載積したカーゴ船の船長との遣り取りがあったが、一体どういうつながりなのかがその時点ではなんのことやらさっぱり想像がつかなかった。ナチ政権下でのルーヴル、美術品を必死に守ろうとする館長ジャック・ジョジャール、そして美術に造形が深くジョジャール館長と同じく美術品を守ろうとするナチス・ドイツの将校ヴォルフ・メッテルニヒトにより美術品がベルリンに流れるのを防ぐ。一方ルーブルの多くの美術品はナポレオン1世が収奪したものと、そこには複雑な歴史がある。
美しく撮影されたルーブルと美術品の数々とソクーロフならではの素晴らしい作品であった。