10 December 2018

The Jazz Ambassadors / ジャズ・アンバサダーズ

by Hugo Berkeley 2018 US/UK

1959年米国務省がアメリカのイメージ向上を図り計画したジャズ・アンバサダーズ。このジャズ・アンバサダーズを題材としたドキュメンタリー。時は冷戦下、アメリカ国内は公民権運動に揺れ動き社会は大きな転換期を迎える。人種差別そしてその社会的葛藤をソ連はプロパガンダに大々的に利用、世界的にアメリカのデモクラシーとは裏腹のイメージが蔓延する。NYハーレム出身の黒人上院議員アダム・クレイトンJrはアジアやアフリカの独立を目指す国々への支援を政府に提唱し、また国務省に逆らって自らの意志で1955年アジア・アフリカ会議にオブザーバーとして参加、グローバルにおけるアメリカの存在と多民族支持のイメージを高める事に成功、帰国後アダム・クレイトンJrはその功績に賞賛を得る。1956年アダム・クレイトンJrは国務省に偉大なるジャズミュージシャン達を文化交流大使として世界ツアーを行うことを提案。第一号としてディジー・ガレスピーを筆頭とするバンドの中東ツアーを敢行。その後ルイ・アームストロング、ベニー・グッドマン、デイヴ・ブルーベック、デューク・エリントンと続いていく。このドキュメンタリーでは貴重な映像アーカイブ、そしてインタビューを通して、アメリカをアピールする姿とホームタウンで続く公民権運動の苦しみの間にいるミュージシャン達の葛藤を追求している。このドミュメンタリーの見所は、ミュージシャン達のアーカイブ映像。ルイ・アームストロングがアフリカ各国をツアーしていたなんて全く知らなかったし、またどこも国をあげて大歓迎する映像はそれはある種感動的なものであった。

3 December 2018

OSS 117: Le Caire, nid d'espions / OSS 117 私を愛したカフェオーレ

by Michael Hazanavicius 2006 France

2012年アカデミー賞受賞作品「アーティスト」の監督ミシェル・アザナウィシウスのデビュー作、スパイ・コメディー映画。舞台は1955年カイロ、スエズ運河を巡って各国のスパイの巣窟となっている。OSSのスパイ、ユベール・ボニスール、通称OSS 117(ジャン・デュジャルダン)はカイロで消息を絶った親友であり同僚のジャックの捜査に潜入。しかしながらユベールはイスラム教には全くの無知、人種差別、放漫と典型的なポストコロニアル。ジャックの秘書ラルミナ(ベレニス・ベジョ)、女スパイのプリンセス(オーレ・アティッカ)と共に陰謀を暴いていく。とはいえこれはドタバタコメディー。007「ドクター・ノオ」をパロって美術や衣装やセットはとてもいいが、肝心のコメディーの部分がどうもイマイチいけてない。これを見たのがフランス・インスティチュートで多分フランス人と思われる人たちは笑っていたが、笑いのツボが違うのかどうも可笑しくない。フランスでも興行成績はよかったとか。笑いを除けばほぼよかったのに残念。OSS117を演じたジャン・デュジャルダンは間がいいというか、芸達者。「アーティスト」でも印象深かったが、実際にセリフがある役を見ると実にいい役者だ。

1 December 2018

An Inn at Osaka / 大阪の宿

by Heinosuke Gosho 1954 Japan

五所平之助の「大阪の宿」、初めて見る監督である。東京から大阪に左遷された三田(佐野周二)、安下宿を住処とする。この下宿で知り合う女中達、そして街にすむ芸者や人々を通して三田の生き方が変わっていく。この作品はあくまでも普通の人が普通に人生を選択し生きていく姿を描いている。そこにはドラマティックという表現は全くなく、画面に映し出された人々の人生に抵抗しないで生きる姿。女中のおりか(水戸光子)、おつぎ(川崎弘子)、芸者のうわばみ(乙羽信子)皆与えられた境遇の中で生きる。置かれた境遇は決していいものではないが人情で繋がって生きている姿がある。現代社会が失ったお隣近所との繋がり、人情を忘れてない世界がそこにはある。ある一種のリアリズム的な作品。また撮影された50年代前半の大阪の庶民の街が見られる。大阪城から眺める大阪の街は空き地が至る所にありまた空が大部分を占めている。今では高層ビルだらけのコンクリートの街だ。なんかこう、今まで見たことのないタイプの作品であった。

29 November 2018

Gion Bayashi / 祇園囃子

by Kenji Mizoguchi 1953

戦後の京都祇園、世代が違い考え方も違う姉と妹の姉弟関係にある芸妓と舞妓、この二人を描いた溝口健二の作品である。

舞妓を志願する栄子(若尾文子)を引き取る芸妓の美代春(小暮実千代)。一年後美代春は修行を終えた栄子を見世出しするが、それにあたりお茶屋の女将から多額の借金を借り入れる。これが後、栄子と美代春の将来に大きく影を落としていく。

若い栄子は人権を語り物事をはっきり述べる現代っ子、一方どんな時にでも人情だけは失わない古風な美代春。美代春も実は意志の強い女性だが自らの意志に反してでも栄子を守ろうとする。

この美代春を演じる小暮実千代が悩ましく妖麗で素晴らしい。実際に彼女は「ヴァンプ女優」と名を馳せていたそうだ。彼女の立ち居振る舞いの美しさに釘付けになってしまった。「ヴァンプ女優」というとすぐにリタ・ヘイワースが思い出されるが、小暮実千代にしろリタ・ヘイワースしろ白黒の画像では美しさがとても際立つ女優だ。またさすが溝口健二、若尾文子と小暮実千代を演じるこの二人の女性、そして祇園の町を情緒深く描いている。それにしても祇園に通う大会社の専務そしてそのクライアントと二人の男性が出て来るのだが、この二人の女性の扱いがあまりにも横柄で、なんだこの男は!と思った次第だ。今の#me too時代では考えられない男性像だ。

17 November 2018

Sandakan No 8 / サンダカン8番娼館 望郷

by Kei Kumai 1974 Japan

19世紀九州から東南アジアに渡り娼婦として働いた日本人女性からゆきさんについて書かれた山崎朋子著書「サンダカン8番娼館、底辺女性史序章」が原作。老女サキを演じた田中絹代がベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞している。

からゆきさんを研究している女性史研究家三谷(栗原小巻)は偶然に天草で知り合った老女サキから彼女のサンダカンでの経験を聞くこととなる。

老女サキを演じた田中絹代はこの作品の2年後に他界、遺作でもある。過酷な人生を今だに送る老女サキからは怒り憎しみは全くというほど感じられず、それ以上に清く真摯に受け止める姿が印象的。田中絹代の静の演技がとてもいい。一方若き日のサキを演じた高橋洋子はあどけない顔ながらも迫力満点で力強い。この若き日と老いたサキの姿が素晴らしい。熊井啓の演出はドキュメンタリータッチだが、美術監督の木村威夫の作ったサンダカンの路上のセットはどちらかというとデフォルメが強く演劇の世界に近いもので、多少ずれてる感は拒めない。

からゆきさんの多くは島原や天草出身が多く、この地域はとても貧しかったに違いない。現在でも続いている人身売買は国際的に非難されてるが結局のとここの問題は貧困をなくさない限り根絶することは難しいであろう。

14 November 2018

Gate of Flesh / 肉体の門

by  Seijyun Suzuki 1964 Japan

1964年制作、鈴木清順の「肉体の門」、この時代の作品は監督の遊びや実験的な演出が取り入れられ面白い作品が多いがこの「肉体の門」もその一つ。「肉体の解放は人間の解放」と1947年に書かれた田村泰二郎の原作を元に戦後の怒涛の社会に生き抜く娼婦四人と復員兵を描く。美術監督の木村威夫が表現する世界と鈴木清順の演出がなんともエロティックかつダイナミック、先鋭的な映像を作り出してた。「食うことそして性欲が人間の本性」と嘆く復員兵の宍戸錠、そして全てを呪い底辺まで身を落とすマヤの野川由美子が若者の本性を体現しておりとても印象的。荒廃し切った灰色の東京の街のなかで四人の娼婦がきている服は赤、青、黄、緑の原色、画面の中で彼女達の力強さを浮き上がらせていた。ゴダールの「ウィークエンド」を思い出したが、これは1967年作成と「肉体の門」のあとだ。

9 October 2018

Enter the Dragon / 燃えよドラゴン

by Robert Clouse 1973 Hong Kong, USA

カンフー映画の金字塔、ブルース・リー主演「燃えよドラゴン」、たまたま夜中TVで放送していたので見たが、いや〜流石に今でも十分に面白い。カンフー・エンターテイメントの骨頂!体一つでカンフーを一つのアクション映画ジャンルに作り上げたブルース・リーの格闘技の凄さ以上に彼の持つストイックさもなんともいえない。

この「燃えよドラゴン」はブルース・リーの初めてのハリウッド共作であるため、監督はアメリカ人のロバート・クローズ。当時ヒットを飛ばしていた007 ジェームス・ボンドを意識してか共演しているジョン・サクソンはどことなくショーン・コネリーを連想させる。また猫を抱いた犯罪組織の長ミスター・ハン(シー・キエン)も「ロシアより愛をこめて」や「サンダーボール作戦」などに登場する犯罪組織の首領ブロフェルドそのもの。Kang Fu meets 007という感じであろうか。とはいえカンフーアクションとしての土台がしっかりとしているので一つの作品として確立している。

最近のアクション映画はCG抜きではありえない。この時代のアクション映画は俳優自身やスタントが全てアクションを行なっていた。やはり実写の凄さ、迫力点において現在のアクション映画とは比べ物にならない面白さだ。

4 October 2018

Gotterdammerung / 神々の黄昏

@ Royal Opera House
作曲 : Richard Wagner
指揮 : Antonio Pappano
演出 : Keith Warner

第三夜でシリーズ最後の「神々の黄昏」、壮麗なメロディーで一番好きな部である。ジークフリードがラインに旅立つ前にブリュヒンデに指輪渡すシーンが聴きどころなのだが、この二人が指輪を投げ合うという演出で、あ〜指輪落としそうと気が散ってしまい音楽に没頭することが出来なかったのが残念。ブリュヒンデのニナ・シュテメは文句なし。あとハーゲンを歌ったシュテファン・ミリングが圧倒的な迫力。引き続きオーケストラはホーンでヒット&ミス。結構辛口な批評を受けたこの「ニーベルングの指輪」、クラシックな演出とは違い様々な要素を混ぜいいのか悪いのかは別としてエンターテイメント的にはとても楽しめたものであった。

1 October 2018

Siegfried / ジークフリート

@ Royal Opera House
作曲 : Richard Wagner
指揮 : Antonio Pappano
演出 : Keith Warner

第二夜の「ジークフリート」、今まで見てきた「ジークフリート」のプロダクションの中で一番楽しめたものであった。通常重くシリアスな演出だがこのキース・ウォーナーの舞台は笑いのツボ満載で、クライマックスのジークフリートとブリュヒンデが愛の歓喜に身を任せるシーンですら笑える要素が組み込まれていた。これは好き嫌いが別れるだろう。オーケストラは引き続きヒット&ミス。歌手陣では、またまたブリュヒンデのニナ・シュテメが素晴らしい歌いっぷり、又ジークフリートのシュテファン・フィンケは初めて聞いたのだが、恐れを知らない単純なジークフリートから愛を知り初めて自分自身の恐れに直面する姿をダイナミックにかつ繊細に歌い上げていた。ミーメのゲルハルト・シーゲルは安定のよさ。いよいよ残るのは「神々の黄昏」のみ、楽しみである。

28 September 2018

Die Walkure / ワルキューレ

@ Royal Opera House
作曲 :  Richard Wagner
指揮 : Antonio Pappano
演出 : Keith Warner

ニーベルングの指環第一夜「ワルキューレ」、コッポラの「地獄の目次録」では、「ワルキューレの騎行」の戦慄に乗ってズシリと重たい要塞のようなアメリカ軍ヘリコプターの部隊がベトナムを爆撃して行くシーンは映画史の中で語り継がれている。オペラに話を戻すと、序夜「ラインの黄金」から一転してそのスケールにあった重厚なものであった。一方オーケストラのチューンが多少乱れ、管楽器がずれている時もあり演奏は完璧とは言えルものではなかった。歌手陣に関しては、ブリュンヒルデのニーナ・シュテメはさすがの完璧度。フンディンクのアイン・アンガーも印象に残るものがあり、ジークムントのスチュアート・スケルトンも良く、ヴォータンのジョン・ラングレンも苦悩する神が板についてきたようだ。席が舞台に近い事もあり歌手の演技や表情も良く見え、やはりニーナ・シュテメは群を抜くものがあった。残り2夜の彼女が楽しみである。

26 September 2018

Das Rheingold / ラインの黄金

@ Royal Opera House
作曲 : Richard Wagner
指揮 : Antonio Pappano
演出 : Keith Warner

キース・ウォーナー演出2005年版「ニーベルングの指輪」の再公演。序夜の「ラインの黄金」、この後3夜に渡る指輪を巡る神々と人間の壮大なドラマのイントロダクション的オペラ。「ニーベルングの指輪」そしてワーグナーというと、あまりにも重たい内容、重厚な音楽、そして長時間という極め付けな真剣そのものなオペラ作品であるが、キース・ウォーナーの演出はそれを逆手に多少ディフォルメありのコミカルなものに仕上がっている。所々好き嫌いがあると思うが全体としてはこの「ラインの黄金」まあ私好みの舞台である。多少残念なのは、初日という事もあるのか歌手陣の勢いがあまり感じられなかった事である。壮大なスケールの中で歌うには歌手陣にもそれなりのスケールが要される。これからヴォータンのジョン・ラングレンがどう勢いを増して行くのかが楽しみだ。

17 September 2018

Zimna Wojna / Cold War / コールド・ウォー

by Pawel Pawlikowski 2018 Poland

2018年カンヌで最優秀監督賞受賞作品「Cold War」、冷戦時代のポーランドで冷戦という時代に翻弄される恋人達を追った作品。前回の「イーダ」と同じくパブリコウスキー監督の演出はモノクロで静かに進行していくが、なかなかインパクトの強い内容である。

民族音楽団のシンガーダンサーに選ばれたズラ(ヨアンナ・クーリグ)、楽団のディレクターであるヴィクター(ボリス・シッチ)と恋愛関係になるが、時は冷戦時のポーランド。自由を求めて渡航公演中に亡命するヴィクター、一方故郷を離れる事ができないズラだが渡航公演のたびに逢瀬を重ねお互い身を滅ぼしていく。

音楽と映像で見せるこの作品、大人好みな風合いである。確かに劇場にいた観客の多くは高齢者が圧倒的。モノクロで撮られたパリとポーランドがとてもクラシックでノスタルジック。50年代のパリの音楽シーンはとても魅力的だが、一番印象に残ったのは民族楽団の団員が歌うポーランドの民謡。意味は分からないが「オヨヨ〜〜オヨヨ〜〜」と歌うシーンがなかなか迫力である。とはいえ「愛の嵐」でシャーロット・ランプリングがナチのユニフォームをきて歌うシーンのような虚無感が全体を包んでいた。

2 September 2018

Black KKlansman / ブラッククランズマン

by Spike Lee 2018 USA

長い間いまいちパッとしなかったスパイク・リー、久々にこれぞという作品が登場。「ブラッククランズマン」、70年代後半アメリカ、コロラドスプリングスで初の黒人警官となったロン・ストールワース(ジョン・デビッド)、電話で白人人種差別主義者になりすましクー・クラックス・クランにコンタクト、同僚のユダヤ人刑事ジマーマン刑事(アダム・ドライバー)と協力しながらKKKの陰謀を捜査するという突拍子もない内容であるが全体的に上手くまとまりなかなか見応えのある作品であった。

スパイク・リーならではのポップでユニークな演出、また70年代ブラックスプロイテーションもどきながらも現代風刺も忘れていない。KKK のメンバー達が「America First !」と皆で叫ぶシーンはすぐさまにトランプの姿と結びつき、多くのシーンで現在のアメリカの社会を反映していた。久々の社会派作品、娯楽作品がありふれている中、映画という媒体の正義の姿を見ている気がした。と硬い事を言っているが、笑も多く含まれた内容であった。アメリカ社会に危機感を抱いている私なので、スパイク・リーにはこの様な作品を作ってくれてありがとうと言いたい。まあこの作品を見るひとは限られているだろうが。。。