10 February 2018

Carmen / カルメン


@ Royal Opera House
作曲: Georges Bizet
指揮: Jakob Hrusa
演出: Barrie Kosky

ニュープロダクションの「カルメン」、今までとは全く違う、お芝居の様なミュージカルの様な典型的な演出のカルメンとは全く違ったものであった。セビリアのという感じは全くなしでどちらかというとAll that Jazz的。写真の真ん中の女性がカルメン。セットは1つのみ、シーン毎には場内アナウンスで情景が述べられ、挙げ句の果てには所々カルメンの心情も説明される有様。踊りの場面が全体を通して多くあり、歌って踊れる歌手でないとこの舞台では難しいと感じさせる。最後ドンホセに殺されたカルメンが音楽が終わった直後にすくっと起きて「人生ってこんなものなのね」という感じで戯ける演出は意表をついたものであった。好きか嫌いかは別として全く退屈なしで面白おかしく楽しめた舞台であった。カルメン役のAnna Goryachovaは歌も踊りもとてもよかった。ドンホセのFrancesco Meliは初めはただ怒鳴っているとしか思えず失望していたが中盤から調子が出てきたのか聴きやすさは抜群によくなっていた。

25 January 2018

Mudbound / マッドバウンド 哀しき友情

by Dee Rees 2017 USA

今年度アカデミー賞で脚本賞、助演女優賞、撮影賞、主題歌賞でノミネートされている「マッドバウンド 哀しき友情」、ある意味現在の社会の流れを象徴しているかのような作品である。監督そして脚本は黒人女性でレズビアンを公言しているディー・リース、助演女優と主題歌は黒人シンガーのメアリーJブライジ、そして撮影監督賞初の女性ノミニーであるレイチェル・モリソン。配給はネットフレックス。40〜50年代ジム・クロウ制度が平然と存在するアメリカ南部ミシシッピーが舞台である。

ミシシッピー田舎にあるコットン農場、照りつける太陽、そして容赦無く降る雨と、大地はいつも泥だらけで環境は厳しい。大家の白人家族ヘンリー(ジェイソン・クラーク)と妻ローラ(キャリー・ミリガン)そしてヘンリーの父で人種差別主義のパピー(ジョナサン・バンクス)、ヘンリーの弟でパイロットとして第二次世界大戦で戦っていたジェイミー(ギャレット・ヘドランド)、一方ヘンリーの農場で働く黒人一家の長ハプ(ロブ・モーガン)と妻フローレンス(メアリーJブライジ)そして息子で戦車隊の隊長を勤めたロンゼル(ジェイソン・ミッチェル)、この2つの家族の関係が描かれている。

厳しい環境そして人種差別で過酷で虐げられた黒人一家の生活がしみじみと伝わってくる。また運命に逆らえない惨めな人生を営む白人一家も描かれている。それにしても人種差別が公然と約50年前まで行われていたとはヘドがでる思いだ。第一次、二次世界大戦中アメリカ軍には第92歩兵師団があり黒人はこの団に所属していた。また第二次世界大戦ではTuskegee Airmen、タスキーギエアメンと呼ばれる黒人戦闘機部隊が活躍した。大戦から帰還し立ち寄った地元の食料品店の表玄関から出ようとしたロンゼルを阻んだパピーと白人男性仲間が「お前は軍で白人と同じように戦ったらしいがここはミシシッピーだ、裏口から出ろ」と言ったこの一言がこの不条理を言い表していた。ひどい話だ。

エアリーJブライジが演じた、厳しい環境生活の中でもずっしりと見守る母フローレンスが印象的だった。

24 January 2018

Salome / サロメ

@ Royal Opera House
作曲 : Richard Strauss
指揮 : Henrik Nanasi
演出 : David McVicar


オスカー・ワイルドの戯曲が元となっているシュトラウスの「サロメ」。このプロダクションは2008年マックビカー演出の再演であり10年前のものだが色褪せず十分な見応えである。7つのベールの踊りでは、義父エロドの長年に渡るサロメの葛藤をクロノロジカルに見せサロメの苦悩が現れている。とにかく血みどろの舞台で、終わった後の挨拶ではヨカナーンを歌ったミヒャエル・ボォッレとサロメのマリン・ビストレムが床に溜まった血溜まりを避けて何度も挨拶している姿は観衆からクスクス笑いを誘っていた。
サロメは1世紀頃古代パレスティナに実在していたとされる。ヨカナーンの生首に口づけするサロメは耽美の象徴とされ彼女を題材にした絵画、小説は数多くある。オペラでは演出家によって、狂った女、虐げられた女性、自己を突き通す女性と解釈は色々とあるが、このマックビガーの舞台ではどちらかというと虐げられてきた女性という印象を与えるが、それ以上に自己顕示欲が異常に強い女性、ファムファタールが具現化されている。


20 January 2018

Three Billboards Outside Ebbing, Missouri / スリー・ビルボード

by Martin McDonagh 2017 USA

番宣を見て以来今期一番楽しみにしていた「スリー・ビルボード」、想像していた以上にシリアスな内容だったがブラックユーモアも多く含みやはり期待通りのものであった。

ミズーリ州のド田舎エビングに住むミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)、7か月前に娘をレイプ殺害され未だに犯人が捕まっていない事に怒り悲しんでいる。ある日ミルドレッドは路上沿いにある廃れた3つの広告看板に気づく。捜査が進まない怒りを、警察署長であるウィロビー保安官(ウディ・ハレルソン)を名指しにした告訴をこの広告看板に上げた事によりエビングの住民の間で亀裂が起きる。

この作品のテーマは怒りが怒りを呼ぶという、怒りの連鎖。監督のマーティン・マクドナーは意識していたのかどうか分からないが、いかにも現在の社会状況、特にアメリカ社会を象徴しているかのような内容である。エビングはまるでトランプ・ランドを見ているようだ。断ち切れないこの怒りの連鎖、このまま自滅して行くのか?断ち切ることが出来るのか?この作品のキャラクターを通して物語が語られる。

フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、差別主義でレッドネックのジェイソンを演じたサム・ロックウェルが好演。特にフランシス・マクドーマンドが演じた母ミルドレッド、彼女にから発せられる言葉には悲しみとほとばしる怒りの激しさが強く感じられるが、これが皮肉なユーモアと融合され不思議な親近感を彼女に覚える。監督のマーティン・マクドナーは初めて知った監督、調べてみると舞台で活躍していた英国人出会った。

29 December 2017

Happy End / ハッピー・エンド

by Michael Haneke 2017 France, Austria

ミヒャエル・ハネケの新作「ハッピー・エンド」、フランスのカレーに住むブルジョワ階級3世代に渡るローラン一家を描いている。勿論サイコパスを描くと最高のミヒャエル・ハネケの作品なので、このローラン一家のそれぞれのメンバーも人には言えない秘密を抱えている。

一家の家長である80歳の認知症を患い始めたジョルジュ、ジョルジュから建築会社を継いだ娘のアン、アンの息子で建設会社で監督業をするピエール、アンの兄弟で医者のトーマス、トーマスと前妻の間の娘ティーンのイブ、ローラン家の住み込み手伝いモロッコ人の夫婦、トーマスの妻と生まれたばかりの子供、カレーに住む移民と多くの人物像が描かれているが、真核は壊れた家族の群像劇でありまた皮肉で冷たいコメディー要素も含んでいる。この普遍的な人間が抱える闇の部分が、現代のコミュニケーションのツールであるメールやSNSやビデオチャットが画面全体に映し出される事により現代の社会病がより際立っている。

アンはイザベル・ユペール、ミヒャエル・ハネケの作品でこの手の役柄はさすが文句なし。作品全体としてはクライマックスを除いてはやや退屈気味であったが、まあ日常に潜む病という事では監督の意図が十分に理解できる、とはいいつつ長いと感じた作品であった。

18 December 2017

Semiramide / セミラミーデ

@ Royal Opera House
作曲 : Gioachino Rossini
指揮 : Christopher Willis
監督 : David Alden

ローヤル・オペラ・ハウスの新プロダクション「セミラミーデ」、ロッシーニのイタリア時代最後の作品。セミラミスはギリシャ神話では古代バビロニアを再建した女王戦士として扱われ、アルメニア伝説では、女王であるセミラミスを蔑ろにしたアルメニア王である夫を殺害した色情魔と言われている。また後にダンテの神曲や数々のオペラや劇では好色の罪で裁かれている。ロッシーニのセミラミーデはボルテールの悲劇「セミラミス」をベースとしている。

この新プロダクション、バビロニア/アッシリアのメソポタミア調文化が現代独裁国家というかコミュニストのプロパガンダ的なデザインと融合したものと、これがなかなかの舞台演出で、私の好みにとてもマッチし、とてもユニークで斬新かつ成功した取り組みであった。またBalint SzaboやDaniela Barcellonaと歌手陣には申しぶんなかったか、その中でもセミラミーデを歌ったJoyce Didonatoの歌唱力には聞き惚れてしまった。

12 December 2017

Menashe / メナシェ

by Joshua Z Weinstein 2017 USA

NYブルックリンのBorough Park、イスラエルの次に正統派ユダヤ人人口が多い地区である。この地区に住むハシド派で男やもめのメナシェ、10歳の息子リベンがいるが宗教指導者ラビの指示でメナシェの兄一家に預けられている。メナシェの懐はいつも困窮し、グローサリーショップでの仕事もなかなか上手くいかず、亡き妻の治療費も兄に代用してもらっていたりと、兄からは見下され、また自尊心にも欠けるメナシェだが、息子への愛情は大きい。

このメナシェ(写真右側)、とても真面目でいい人柄がそのまま滲み出ているが、運の流れは彼に逆らっているようだ。自立して自分の手で子供を育てる事ができることを兄やラビに証明し、息子を引き取ろうとする姿が遣る瀬無い。

クルクルの髪の毛で大きな帽子を被り黒のスーツを着、ジャケットの裾から白シャツに付いている4本のフリンジが見える独特なスタイルの正統派ユダヤ人。女性も帽子の代わりにカツラを被り子沢山。彼らのライフスタイルに関して少しながらの知識はあるがとてもミステリアスなものだ。この作品では正統派ユダヤ人の生活に入り込み彼らの日常の姿を垣間見ることができる。

この滅多に見る事のないハシド派の生活が舞台になっているが、題材は親子の愛という普遍的なも、そして話は丁寧に描かれ、また役者もとても信憑性があることがこの作品の成功に繋がったのであろう。

7 December 2017

Otoko wa Tusraiyo / 男はつらいよ

by Yoji Yamada 1969 Japan

国民的映画フーテンの寅さんシリーズ第1作目山田洋次監督の「男はつらいよ」。主演渥美清が亡くなるまで48作続いた寅さん、やはり文句なしに面白い。いい加減で直ぐに女に惚れてしまうどうしようもない寅次郎、でも人情熱く、ここという所でキメようとするがどうもズレてしまう。この波瀾万丈の人生をおくる寅さんを中心に描かれる下町喜劇。喧嘩あり、恋沙汰あり、モラルもちょっとありでお涙頂戴と娯楽映画を極めている。これに踊りが加わればインドのボリウッド映画! 現在では多分あまり見られなくなったコミュニティー内での人と人との密接な付き合い、そしてザ・昭和の雰囲気が満載なでなんとなく懐かしい気がするこの作品、海外生活が40年近い私にとってこの寅さんの世界は私の中にある永遠の日本と重なるものがある。これは私だけでなく、見た人それぞれ郷愁に駆られる要素がこの寅さんシリーズにはあるのかもしれない。残り47作見ていかなければ!!

Les Vepres Siciliennes / シチリアの晩鐘


@ Royal Opera House
作曲 : Guiseppe Verdi
指揮 : Maurizio Benini
監督 : Stefan Hermeim
再上演監督 : Daniel Dooner

ヴェルディ誕生200年を記念して2013年にローヤル・オペラで上演されたヘアハイム演出の「シチリアの晩鐘」の再演出版。ヴェルディは元々パリ・オペラ座用に書いた、1855年に上演されたグランド・オペラ。5幕構成の壮大なスケール、そしてダイナミックな音楽と、まるで荒れまくった嵐の中で展開する物語の様。13世紀のフランス統治下にあるシチリアで起こった民衆によるフランス人が虐殺された史実がベースとなっている。そして勿論オペラなので、結ばれない運命に振り回される男女の悲恋が中心となっている。

エレーヌのMalin Bystrom、アンリにはBryan Hymel、モンフォール総督はJeremy Whiteとローヤル・オペラお馴染みの歌手陣揃い。別の日にモンフォール総督を演じたYoung Artist ProgrammeからのSmon Shibambuには興味があったが残念ながら見逃してしまった。

なかなか楽しめたグランド・オペラであった。

10 October 2017

Wallay / ウァラー

by Berni Goldblat 2017 France, Burkina Faso, Catar

西アフリカはブルキナファソ在住ドキュメンタリー監督Berni Goldblatの初めての劇映画「Wallay」。

母を亡くした13歳のアディは父親とフランスのリオンで生活している。父親からお金を盗んだりと日増しに荒れるアディにしびれを切らした父親は出身地である西アフリアのブルキナファソにあるWallayという村に息子をホリデーと偽って送り込む。先進国の都会で育ったアディ、村で家族に迎えられるが生活には馴染めず、父親代わりの保守的な叔父との葛藤、祖母との出会いを経て自己アイデンティティーを形成して行く。

ドキュメンタリー的に撮られたこの作品、先進国の典型的な身勝手で自己中心的なティーンエイジャーが全く違う環境で思い通りにならない状況に置かれ追い詰められながら成長して行くアディ(Makan Nathan Diarra)、アディのメンターとなる従兄弟のジャン(Ibrahim Koma)、そして無条件の愛を注ぐ祖母(Josephine Kabore)、叔父のアマデュ(Hamadoun Kassogue)の素晴らしい演技でストーリーにグイグイと引き込まれて行く。上映後監督の質疑があったのだが、アディを演じたMakan Nathan Diarraはこれが初めての映画だったそうだ。パリでアディ役のキャスティングを百人近く行なったそうだが、偶然道でMakan を見かけ、この子こそアディだと思いそのままスカウトし器用したそうだ。各国の映画祭でMakanは同年代の女の子から絶大な人気を得ているという。その他のキャストは西アフリカでは有名な俳優である。

丁度1ヶ月前ガーナとブルキナファソの国境沿いに行っていたのだが、この映画のロケ地は私がいた地からさほど遠くなかった。この作品にも現地の人々の文化、伝統、そして彼ら特有のみなぎる生の強さが滲み出ていた。ブルキナファソはアフリカでも唯一の映画国、2年毎に行われる映画祭には是非行ってみたいものだ。

7 October 2017

Sheikh Jackson / シャイフ・ジャクソン

by Amr Salama 2017 Egipt

エジプトの監督アムル・サルマの新作「Sheikh Jackson」。マイケル・ジャクソンの死によって自己認識の危機に陥り聖職者である事の矛盾に耐えられなくなる若いイスラム教指導者(Ahmad Alfishawy) を描く。

幼少期に母を亡くし、マッチョでぶっきらぼうな父親(Maged EL Kedwany) に育てられたこの指導者。父は愛人をつくりボディービルに専念、一方思春期の指導者(Ahmed Malek)はマイケルジャクソンにハマり、同じくマイケル・ジャクソンにハマっている同級生の女の子に取り入る為ムーンウォークを覚えマイケルジャクソンとそっくりなヘアースタイルをし服装を真似するのであった。それから15年後若くしてイスラム教指導者なったがマイケル・ジャクソンの死をきっかけに人生を振り返り本当の自分を見つける新たな一歩を踏み出す。

2009年当時そして現在、西洋化したエジプト社会そして保守的な側面を垣間見ることができる非常に興味深い映画であった。ラディカルなイスラム聖職者と彼らに悪と見なされるポップスターが結びついたユニークな内容。またこの若いイスラム教指導者の自己の旅は、聖職者という括りだけでなく誰もが共感できるものである。

上映の後に監督の質疑があったのだが、出演俳優は皆エジプトでは有名俳優だそうだ。確かに、皆印象深い演技だった。またマイケル・ジャクソンの楽曲使用許可を打診したそうだが頑なに断られたという。監督は編集時にこれは指導者の内面の話なので逆にマイケル・ジャクソンの楽曲は必要ないと悟ったそうだ。確かにマイケル・ジャクソンの曲が途中で流れると話の軸がそれてしまいそうだ。

イスラム教という世界が舞台でありながらも誰にでも共通する主旨なので万国共通して受け入れられ楽しめる作品だと思う。

30 August 2017

Mimosas / ミモザ

by Oliver Laxe 2016 Morocco

2016年カンヌの批評家週間グランプリ受賞作品。異なる2つの世界が、イスラム教礼拝単位ラカートの位置をタイトルとした3部構成で描かれている。

モロッコのローカルタクシー会社でメカニックとして働くシャキブ、長老の旅を任されアトラス山脈へとタクシーを走らす。もう一つの世界は時代が下ったアトラス山脈。年老いた長老シェイクは終の住処シジルマサへ急ぐ為、決死のアトラス山脈越えを率いるキャラバンに要求るすが途中死んでしまう。このキャラバンに紛れ込んでいた悪漢アーメッドとサイードは長老シェイクの死体をシジルマサに運ぶ事を報酬と引き換えに約束し、残りのキャラバンは引き返して行く。何処からともなく現れたシャキブはこの2人の旅に加わる。

この作品の見所はロケーションの凄さ。雄大なアトラス山脈と果てしなく続く土砂漠の映像があるからこそ、シンプルで幻覚的な話しが生きてくる。話しは映像を主体にゆっくりと語られる。土砂漠とアトラス山脈の世界は静寂に包まれ、時たま聞こえるのは最低限の会話、たき火の音、ほぞぼそと聞こえる歌声、川の流れ、馬の蹄の響きにライフル音だけだ。

深い渓谷の岩肌に沿った細道をキャラバンが下りるシーンがあるのだが、こんなところに細道を作る人間の凄さに驚嘆してしまった。十数年前にアトラス山脈を車で越えた事があるのだが、その美しさとスケールに圧巻されたが、あまりの険しさに今までドライブした中で一番怖い思いをしたルートでもあった。昔はこの山脈を実際に歩いて越えていたとは、人間のサバイバル精神とは凄いものだ。

監督のオリヴェル・ラセを調べてみると、スペイン・ガリシア移民の両親を持つフランス生まれ。2010年にモロッコのタンジェの社会的に差別されている子供達の生活を描いたドキュメンタリー「You All Are Captains」で国際映画批評家連盟FIPRESCI を受賞していた。

24 August 2017

An Inconvenient Sequel : Truth to Power / 不都合な事実2:放置された地球

by Bonni Cohen, Jon Shenk 2017 USA

2006年に公開された「不都合な真実」の続編。元米国副大統領アル・ゴアがプロデューサー、出演した前編では、当時既に後には一歩も引けない状態となった温暖化についてデーターと実例を交えながら警告的に語ったドキュメンタリーであった。このドキュメンタリーは大きな反響を呼び、反対派はでっち上げのデーターと多くの反論も出た。あれから約10年、現在温暖化の影響は全世界で顕著に現れ、トランプ政権を除いては各国が認める人類が危機に瀕する事態となっている。この続編では、過去10年での経緯、そして全世界の合意を取り付けたパリ協定までの道のりを描いている。

前半は、主にアル・ゴア自身について多く語られ、後半はパリ協定での攻防を描いている。アル・ゴアの生い立ち、長年環境問題に取り組んで来た政治活動、彼が全世界で主催する温暖化ワークショップにフォーカスしと、もしかしたら2020年の米大統領選に出るのかと思ってしまう程。アル・ゴアはインフォーメーション・スーパーハイウェイ構想など先見の明に優れており好きな政治家なので大歓迎だが、次期大統領選は若手の活躍を期待したい処もある。後半のパリ協定では、反対声明を出すインドのコンセンサスを取り付けるために奔放する各国代表団とアル・ゴア、そして画期的な合意の瞬間を描いている。

ドキュメンタリーとしては、前回とは全く比べ物にならないインパクトが薄い内容だったが、温暖化への取り組みへの行方を理解するには見て正解な作品であった。この日の上映前に、ツイッターを用いてイギリスとアイルランド全土からの質問に対するアル・ゴア氏との質疑がロンドンからサテライト中継を通じて行なわれた。この質疑には全く関係ないが、テネシー州出身のアル・ゴア氏のスーツにカウボーイ・ブーツという出で立ちに生粋の政治家という印象を受けた。