22 March 2017

Die Meistersinger von Nurnberg / マイスターシンガー

@ Royal Opera House
作曲 : Richard Wagner
監督 : Kasper Holten
指揮 : Antonio Pappano

ローヤル・オペラ監督カスパー・ホルテン最後の演出となる「マイスターシンガー」、アール・デコを基調としたセットそして衣装は現代だったからかもしれないが、どことなくミュージカルの雰囲気も含んだ舞台であった。2幕の終わりはため息ものの演出であった。やはりパッパーノのオーケストラで序曲を聞けるのはいい。ハンス・ザックスのブリン・ターフェルは安定した声であった。

20 March 2017

Elle / エル

by Paul Verhoeven 2016 France

好きな女優イザベル・ユペールの「キャリアでベストな演技」と評価されている「エル」、今年一番期待していた作品であるが、予想通り裏切らずであった。監督はトータル・リコール、ロボコップ、氷の微笑など80〜90年代に数々のヒット作品を作ったポール・バーホーベン。ハリウッドと一線を画したのがよかったのだろう、オリジナルのあるアート映画に仕上がっていた。

複雑な過去を背負うミシェル(イザベル・ユペール)、自宅で覆面男に強姦されるが以前のトラウマから警察に通報しないでいるが、現在そして過去への断ち切りと共に自身の新しい展開を作り出す。この複雑な主人公ミシェルについては様々なメディアで彼女は結局暴力の被害者なのか、いや自立した女性なのかとその意味について多々取り上げられてるが、一筋縄ではいかないすごい精神力を伴った女性像というのが私の印象だ。

それにしてもイザベル・ユペールはこの手の主人公を演じるのが素晴らしく上手い。彼女を初めて好きになったミヒャエル・ハネケの「ピアニスト」では倒錯したピアノ教師を演じていた。

激しい描写を屈しなく描いたこの監督とその女性を素晴らしく演じたイザベル・ユペールがつくりだした最高なサイコドラマだ。

28 February 2017

Adriana Lecouvreur / アドリアーナ・ルクヴルール

@ Royal Opera House
作曲 : Francesco Cilea
監督 : David McVicar
指揮 : Daniel Oren

18世紀初期にコメディ・フランセーズで活躍した女優アドリエンヌ・ルクヴルールの実話を元に作られたこのオペラ、一人の男性を巡って嫉妬に狂う2人の女の話しである。実在したアドリエンヌ・ルクヴルールもザクセン伯モーリッツとも恋愛関係にあり、モーリッツを争ったブイヨン公爵夫人によって毒をもられたという噂がアドリエンヌの早過ぎる死をより彼女の人生をドラマ仕立てとし、オペラ化にもなった。

アドリエンヌ・ルクヴルールを歌ったアンジェラ・ゲオルギューはさすが演技も歌も素晴らしい。元々このプロダクションはゲオルギューを売り出す為にカウフマンをマウリツィオとしてマックビカーが2010年に製作したので、正に彼女の為の舞台である。この2010年の舞台も見ているのだが・・・あまり記憶にないがこの時初めてカウフマンを見たのは覚えている。マウリツィオを歌ったブライアン・ジャッジは初めて聞いたが、なんせ声量が凄い、初めはゲオルギューの声に覆い被さる程だったが次第に2人の調子が会う様になって来てからはとても楽しめた。ロイヤル・オペラ初のブイヨン公爵夫人を歌ったKsenia Dudnikovaもよく、ミッショーネのアレッサンドロ・コルベッリもよくと、キャストで楽しめたオペラであった。

26 February 2017

Il Trovatore / トロバトーレ

@ Royal Opera House
作曲: Giuseppe Verdi
指揮: Richard Farnes
演出: David Bosch
再演出: Julia Burbach

かれこれ数週間前に見たベルディのトロバトーレ、舞台自体はイマイチな感じであったがジプシーの老女アズチェーナを歌ったAnita Rachvelishviliが他の歌手より群を抜いてよかった。グルジア人32歳、2013年にカルメンでローヤルオペラのデビューを飾ったそうだ。本格的な国際デビューは2009/10年シーズンのスカラでダニエル・バレンボイム指揮ヨナス・カウフマンとアーウィン・シュロット共演のカルメン! 是非とも彼女のカルメンが見たくなった。

Youtubeでドミンゴの歌う「ああ、美しい人」を見つけたのだが、聞き惚れるものだ。そのコメントに、カウフマンはコマーシャル的に成功しているだけ、素晴らしいテノールがいない現状の中で生まれたPervert Ear  / 倒錯した耳だと辛辣なものを見つけた。カウフマンのを聞いてみたが、確かにそう思えて来た。

23 February 2017

Moonlight / ムーンライト

by Barry Jenkins 2016 USA

予算5百万ドルとハリウッドにしては低予算なこの作品だが、内容は濃いながらも詩的に描かれ映像も素晴らしいものであった。

アメリカ南部ゲットー出身ゲイの黒人少年が大人に成長していく姿をリトルと呼びつけられる少年、チロンと呼ばれる多感期の青年、黒人男性として見事に成長したブラックと名前は変化しているが一人の男性の人生を3段階で追っている。父親はおらず母親はクラック中毒、父親的存在として親しみを覚えた男性ホアンは母親にドラッグを売る売人と知り、学校ではいじめの的である。リトルの頃からいじめを受け、喧嘩を無理強いされた唯一心を開いた友人ケビンから暴行を受けるチロンは最終的に怒りが爆発、長年のいじめ相手を椅子でぶっ叩き警察行きとなる。長い間カラに籠っていたリトル/チロンが脱皮した瞬間である。その後肉体を鍛え強面でドラッグ売人となったブラックだが、久々にケビンに会う事により心の底にいる繊細なリトル/チロンが垣間見える、と状況はタフで過酷なのだが、その中で生き人々と触れ合う姿がとても印象的である。

全ての役者はとてもよかったが、その中でも父親的存在であったホアンを演じたMahershala Aliの表情が素晴らしい。またクラック中毒の母役のナオミ・ハリスもなかなかなものであった。

9 February 2017

Manchester by the Sea / マンチェスター・バイ・ザ・シー

by Kenneth Lonergan 2016 USA

突然兄が亡くなりニューイングランド・マンチェスターに向かうリー・チャンドラー(ケーシー・アフレック)。兄の一人息子16歳のパトリック(ルーカス・ヘッジーズ)を気遣いながら葬儀の手配など手配する中、兄がパトリックの保護者としてリーを指命していた事を弁護士から聞く。この出来事を通してマンチェスターを去ったリーの過去が徐徐に明らかになっていく。

一人の人間が背負うにはあまりにも悲惨な過去を持つリー。ニューイングランドの典型的な労働者階級が住む街で、登場人物の多くも厳しい人生を送って来た。と書くと暗い重い内容かと思えるが全く違った印象を残した作品であった。悲惨な状況でもクスッと笑える事はあるもので、それがこのティーンエイジャーのパトリックで描かれている。父親の死にあまり実感できていないのか無意識に現実を拒否しているのか分からないが、通常の生活、ガーフルレンドや友達と共有する時間をティーンならではのユーモアで描いている。またリーを演じたケーシー・アフレック、そして出番は少ないがリーの元妻ランディを演じたミッシェル・ウィリアムスも印象的であった。厳しい人生を送る人々を上手く丁寧に描いたためにその人達の弱さでもあり暖かい部分が反映された良質な作品であった。

5 February 2017

Bitter Lake / ビター・レイク

by Adam Curtis 2015 UK

ドキュメンタリー映画「ビターレイク」、ビターレイクとはエジプトのグレート・ビター湖であり、スエズ運河を挟んで地中海と紅海を結ぶ。イギリス人ドキュメンタリー監督アダム・カーティスがBBCにある素材を用いて、アメリカ、イギリス、ソ連、サウジアラビア、そしてアフガニスタンを過去30年に渡って描いている。50年代近代化を目指すアフガニスタンのインフラに着手するアメリカ、78年4月革命、冷戦、ソ連アフガン侵攻、イラン/イラク戦争、タリバン、9.11、イラク侵攻、イスラム国まで追っている。このドキュメンタリーの核は、各政府の思惑と陰謀そして西洋社会がイスラム過激派を善悪で簡素化説明した事により政府自体これから何が起こりえるのかが見えない闇の状態を生み出し、また何が起きてるのかが分からなくなっている現状にあるという事である。
この歴史を社会の流れと対象させ、またモザイクの様に映像素材を斬新に編集した。これによりダークにとても強烈な今までにないスタイルで、私の中に大きく影響を残した、とても興味深い作品となった。彼のもう一つの作品、「Super Normarization」も続けてみるつもりだ。

1 February 2017

Lion / ライオン 25年目のただいま

by Garth Davis 2016 Australia

インドの片田舎、5歳の少年サルーはいつでも兄のグデューと一緒。仕事に行ったグデューを駅で待つサルーはうっかり電車の中で居眠りをしてしまい終点カルカッタで迷子となってしまう。浮浪児となってしまったサルーは孤児院に引き取られ、そこでオーストラリア、タスマニアに住む白人夫婦に養子として引き取られる。成長したサルー、ある偶然にも昔好きだったインド菓子を見た時に失った実母と家族を探し出す事にかられる。

サルー・ブライアリーの経験に基づいた実話である。とても丁寧に作られ、ホロリと感情が上手く描かれている。5歳のサルー、泣いているシーンは全くないが朝起きて頬に乾いた涙が見られるのにはこちらも涙がほろりであった。白人夫婦にはニコール・キッドマン、あまり好きではない女優だが押し殺した感情表現がとても素晴らしかった。成人してからのサルーは「スラムドッグ・ミリオネラー」のデーヴ・パテール。「スラムドッグ・ミリオネラー」以来「マリーゴールド・ホテル」などで見ていたが、今までの彼とは全く違う容姿と雰囲気であった。嫌みがなく、また素晴らしい演出で久々に感動した作品であった。監督のガース・デイヴィスはこれが初めての長編映画とこれから期待出来る監督だ。

23 January 2017

Romeo and Juliette / ロメオとジュリエット

@ Metropolitan Opera House
作曲 : Charles Gounod
指揮 : Gianandrea Noseda
演出 : Bartlett Sher

メトロポリタンオペラハウスの新しいプロダクション「ロメオとジュリエット」、ブロードウェイの「サウスパシフィック」などでトニー賞を受賞し、渡辺謙が主演した「王様と私」のバートレット・シャーが演出という事で期待して行ったが、特別素晴らしいプロダクションという事もなく、どちらかといえば冒険もなにもない平坦なものであった。ロメオを歌ったVittorio GrigoloやマキューシオのElliot Madoreと若い歌手だったからのかやたら飛び跳ねてばかりの舞台でもあった。歌も演技も力がみなぎっていて、芸術的というよりは肉体的、延いては血の気の多い暴走族かチンピラの恋物語というのが似合っている舞台であった。

20 January 2017

Guess Who's Coming to Dinner / 招かれざる客

by Stanley Kramer 1967 USA

シドニー・ポワチエの代表作の一つ「招かれざる客」。「夜の大走査線」と同じく公民権運動が盛んな時期に大きく反響を読んだ作品である。第40回アカデミー賞やBAFTAでスペンサー・トレーシーやキャサリン・ヘップバーンが、またオリジナル脚本で受賞している。

リベラルの白人家庭出身の娘がいきなり黒人のボーイフレンドを実家に連れて来て数日後に結婚すると宣言したらどうなるだろう?マット(スペンサー・トレーシー)とクリスティーナ(キャサリン・ヘップバーン)夫婦のドレイトン家に娘ジョアンナ(キャサリン・ホートン)がボーイフレンドで優秀な黒人医師ジョン(シドニー・ポワチエ)を紹介、そして翌日には結婚するためスイスに行く事を告げる。人種の違いそしていきなりの決断を聞かされてドレイトン夫婦は狼狽、またジョンの両親(ビア・リチャーズとロイ・グレイン)もドレイトン夫妻と同じく戸惑いを隠し切れない。果たしてジョンとジョアンナは祝福されるのだろうか?その判断を数時間後に迫られた両家の話しである。

今日1月20日はアメリカ大頭領就任式、先程TVでライブを見たが2017年は時代逆戻りになってしまったようだ。まあよくいえばグローバリゼーションそして民主主義を考え直す時期がアメリカだけではなく、イギリスにせよ、今年各国で選挙が行なわれるヨーロッパにやってきた。人間は歴史から学ぶというが、決して後戻りする事だけはないことを願いたい。

19 January 2017

La La Land / ラ・ラ・ランド

by Damien Chazelle 2017 USA

今年の賞レースで多くの受賞を予想されているラ・ラ・ランド。批評家から絶賛されているが、どうも過大評価されすぎ感が拭えない。他に目立った作品がないからだろうか、早速ゴールデングローブなどで多くを受賞している。

ジャズミュージシャンのセバスチャン(ライアン・ゴスリング)、女優を目指すミア(エマ・ストーン)の若い二人の夢を追うミュージカル。話しは至って普通なのだからミュージカルの部分で期待したがどうも中途半端、学生映画を見ているような気分であった。唯一、ライアン・ゴスリングはとてもチャーミングに役を演じまたダンスパフォーマンスも素晴らしかった。

まあ今年初めての大失望映画であった。

9 January 2017

Poesía Sin Fin / エンドレス・ポエトリー

by Alejandro Jodorowsky 2016 Chile 


カルト映画の巨匠と言われるアレハンドロ・ホドロフスキー監督の新作、自伝的作品「エンドレス・ポエトリー」、故郷チリで詩人として人生を捧げる事を誓う若き青年アレハンドロ、圧倒的な圧力で息子を支配し医者となる事を押し付ける父親との葛藤中、前衛芸術家達との交流を経て自分自身を作り上げていく姿が写し出されている。この過程がアレハンドロの視点、虚実皮膜的に描かれており、まるで彼の脳みその機能を見ている様で、とてもユーモラスで笑いを誘い出すものがあった。見ている途中フェリーニの「81/2」を思い出させた。

当時シュルレアリスムは多くの芸術家を影響しそのパワーは計り知れない。何でもありの現在においても当時のクレイジーさには驚嘆するものが多い。概念、既存への反抗精神で行けるところまで行ってしまった。商業主義にまみれた現在においてこの作品の中の青春群像を見ているとある意味とても純粋な若者の精神に暖かいものを感じるのであった。

22 December 2016

Der Rosenkavalier / バラの騎士

@ Royal Opera House
作曲 : Richard Strauss
指揮 : Andris Nelsons
演出 : Robert Carsen

ロバート・カーセン新作、シュトラウスの喜劇「バラの騎士」。元帥夫人マリー・テレーズにレネ・フレミング、元帥夫人の17歳の愛人オクタヴィアンにアリス・クート、好色漢のオックス男爵にマシュー・ローズ。アリス・クートにはイマイチ違和感があったがそれ以外ではなかなか楽しめた舞台であった。オペラに行き始めた当初90年代、メトロポリタン・オペラ・ハウスでよくレネ・フレミングを聞いてた頃が思い出された。フレミングは2018年にリタイアするかもと言っているのでもしかしたらこれが最後のロンドンになるかもしれない。