17 July 2018

L'amore / アモーレ

by Roberto Rossellini 1948 Italy

「バラの刺青」に続いてアンナ・マニャーニ主演「アモーレ」、コクトー原作ロッセリーニとフェデリコ・フェリーニ脚本と豪華メンバーが揃っている。この作品2部から構成され、一話の「人間の声」では恋人からの電話を待ち感情に揺さぶられる女性をマニャーニが一人演技し、二話「奇跡」ではアマルフィ海岸フローレの素晴らしい自然造形を背景にマニャーニが聖ヨゼフと思い込んだ男に犯され妊娠する女性を演じている。この偽聖ヨゼフはフェデリコ・フェリーニが演じてる。映画冒頭で「アンナ・マニャーニの芸術性に捧げる映画」とメッセージが挿入されているように、全編ほぼ彼女の一人芝居である。このアンナ・マニャーニは不思議な女優で、時には絶世の美女に見えるが、大概は醜い。そして感情が体現されている。これが彼女の魅力で目が離せない理由かもしれない。

数年前フローレで一夏を過ごしたが、とにかくとんでもない坂道が崖に沿って作られ、その下は絶壁の海と神々しい世界が作り出されていた。こんな場所でロケなんて、相当過酷であっただろうと想像がつく。マニャーニとロッセリーニが暮らした崖下の入江で海水浴をして借別荘に戻るのに階段を使ったのだが、これがなんと1500段以上の階段。素晴らしい景観の場所には試練がつきものなのであった。

15 July 2018

The Rose Tattoo / 薔薇の刺青

by Daniel Mann 1955 US

イタリアの名女優アンナ・マニャーニ主演「薔薇の刺青」、彼女はこの作品でアカデミー主演女優賞を受賞している。昨日ストロンボリ島にいたので無性にアンナ・マニャーニの映画が見たくなりアマゾン・プライムでこの「薔薇の刺青」を見た次第だ。ストロンボリといえばロッセリーニ監督イングリッド・バーグマン主演「ストロンボリ」が有名だが、これは元々はアンナ・マニャーニ用に書かれた脚本だったがロッセリーニがバーグマンと恋に落ちたためバーグマンが主演となった。個人的にイングリッド・バーグマン嫌いでアンナ・マニャーニ大好きなので「ストロンボリ」は見る気がせず、同じくストロンボリで撮影されたアンナ・マニャーニ主演の「噴火山の女」を探したがネットではなかったので「薔薇の刺青」となった次第だ。この作品は初めて見たのだがアンナ・マニャーニの存在感が凄い。それに引け劣らず共演のバート・ランカスターも見応えあり。テネシー・ウィリアムズがマニャーニの為に書き下ろしただけあり内容も演劇的要素が上手く反映されたコメディー。これをこの2人の名優がいい感じで演じている。この作品を今まで見逃していたとは!!

マニャーニと言えば、南イタリアのアマルフィとポジターノの間にフローレという村に「アモーレ」製作中に彼女がロッセリーニと暮らした家がある。とても小さな入江にあるなんとも素朴な漁村の中にあるのだが、それはそれは趣のあるものである。私の中で印象に残る場所の一つである。

29 June 2018

Lohengrin / ローエングリン

@ Royal Opera House
作曲 : Richard Wagner
指揮 : Andris Nelsons
演出 : David Alden


41年ぶりローヤル・オペラの新プロダクション「ローエングリン」、評判通り、期待を裏切らない素晴らしい舞台であった。デビッド・アルデンの演出は伝統的なものとはかけ離れ、舞台は1930~40年代と思わせるヨーロッパ全体主義の社会背景なのだが、どうもワーグナーなのでナチスと重なるものがあり多少ひいてしまった感もあったが、予想外にも観客から笑いを取るシーン!もあり完成度の高いものであった。

クラウス・フォークトの透き通ったトーンの歌声は高貴で、そして端正な容姿はローエングリンにうってつけ。またクレイジーな女性オルトルートを歌ったクリスティーネ・ゲルケは演技、歌のパワーといい迫力満点。ネルソンの指揮を間近で見ることができたが、優雅にかつ重く指揮棒を振る姿は印象的。今シーズン飛び抜けて一番のオペラであった。

21 June 2018

La Boheme

作曲 : Giacomo Puccini
演出 : Richard Jones
指揮 : Nicola Luisotti

昨年の新プロダクション、リチャード・ジョーンズ演出のラ・ボエム。批評は2つに別れていたが、今まで見てきたトラディショナルな演出とは違った印象で主役の可憐で死んでいくミミよりも逆キャラクターで自由奔放な女性ムゼッタが大きくフィーチャーされている印象であった。

地味なキャストであった中でムゼッタを歌ったDanielle de Nieseが出てきた瞬間、その存在感と演技力で他を食らった状態であった。この為ミミを歌ったMaria Agrestaが薄れてしまった。ロドルフォのMatthew Polenzaniもどうも私的にはイマイチ感あり。このプロダクションはDanielle de Nieseでもっているようであった。演出的には好意が持てるプロダクションなので是非別キャストで見てみたいものだ。とは言いつつ旋律の美しさに没頭していたのも確かである。ラ・ボエムで赤いドレスに身をまとったDanielle de Nieseの写真を掲載してしまおう。

13 May 2018

Le Redoutable / Godard mon Amour / グッバイ、ゴダール!

by Michel Hazanavicius 2017 France

1950年代、フランス・ヌーヴェルバーグの旗手であった映画監督ゴダールの「中国女」に主演し結婚したアンヌ・ヴィアゼムスキーの自伝が原作。「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」で成功し名を馳せたゴダール、「中国女」撮影後に一回り以上年下のアンヌ・ヴィアゼムスキーと結婚するが、68年フランスで起きた5月危機、学生運動にのめり込み、そしてゴダール自身もウルトラエゴ化としていく姿を追っている。

監督は2011年「アーティスト」で数多く受賞したミシェル・アザナヴィシウス。この作品の中には、ジャンプカットや赤や青の色、グラフィックなどゴダールの特徴的な演出も多く使われ、またアンヌを演じたステイシー・マーティンの瑞々しさが眩しく、60年代フランスのファッショナブルな姿と、スクリーンに映し出される映像は見ていて楽しい。だが残念な事にゴダールの姿が抉り出されておらず、エゴイストで口先だけの嫌なやつという印象しか与えられていなかった。ゴダールを演じたルイ・ガレル、コメディー的でいいんだがやはりゴダールなのでどこかもっと癖のある姿が見たかった。題材はとても魅力的なのだが、イマイチな作品で留まってしまった。

ちなみにLe Redoutableとは1791年トラファルガーの海戦でネルソン提督とバトルを繰り広げ翌日沈没した船である。その後11代目である原子力潜水艦ル・ルドゥタブルからこの映画のタイトルがきている。ル・ルドゥタブルとは戦慄という意味だそうだ。

7 May 2018

Le jeune Karl Marx / The Young Karl Marx / マルクス・エンゲルス

by Raoul Peck 2017 France, Germany

19〜20世紀のもっとも影響力のある著書と見なされる「資本論」、その著者カール・マルクスの伝記であるこの作品、クラスの違う貴族の娘イェニーと結婚、ドイツからパリに移り、そのパリで生涯のパートナーとなるエンゲルスと出会い、そして1847年にロンドンでエンゲルスと共に共産主義者同盟を創立するまでを描いている。

産業革命を経て生まれた労働者と蔓延る貧困という新しい社会の歪みに対してペンで挑むマルクスとエンゲルスの知識人、この2人の話を映画化するのは容易でない事は想像できる。しかしながらこの作品はウィーン体制崩壊となった1848年革命までの激動の社会とこの2人の若かりし日々にフォーカスして、とてもクレバーに書かれている。またマルクスを演じたアウグスト・ディールとエンゲルスを演じたシュテファン・コナルスケも人物像を魅力的に引き出していた。監督のラウル・ペックを調べてみるとハイチ出身、1996〜97年にハイチ教育省大臣を勤めていた。また今年のオスカーのドキュメンタリー映画賞にノミネートされていた「I'm not your Negro / 私はあなたのニグロではない」もラウル・ペック監督の作品であった。これは未見なので早速見たいものだ。

4 May 2018

Under Sandet / Land of Mine / ヒトラーの忘れもの

by Martin Zandvliet 2015 Denmark

第28回東京国際映画祭で最優秀男優賞を受賞、2016年アカデミー外国映画賞にノミネートされたこの作品のスクリーニング、プロデューサーそして地雷除去組織ヘイロートラストの会長の質疑応答が上映後行われた。

第二次世界大戦ドイツ降伏後、捕虜となったドイツ兵はデンマーク海岸沿いに埋められた200万個の地雷撤去に強要される。20歳にも満たないドイツ少年兵連隊を統括するデンマーク軍軍曹カールの葛藤、そして少年兵達の生き様を描いている。

プロデューサーは、もともとこの映画の構想は監督自身の経験からと述べていた。デンマーク人である監督がドイツに住む従兄弟達とデンマークのパブで飲んでドイツ語で会話していた時酔っ払いが来て「ハイル・ヒットラー」と言い寄って来たという。戦後70年以上経っているいるのに人々の隠れた心の中にはまだ戦争の姿が残っている、と感じた監督はこのプロデューサーと共に地元に根ずく史実をリサーチ、そしてこのドイツ兵による地雷撤去を発見したそうだ。デンマークでもこの話は殆どの知られていなかったという。事実この地雷撤去はジュネーブ条約に反しており表立てはボランティア参加と正当化されていたそうだ。また従事したドイツ兵の殆どは15〜18歳とまだまだ子供の年代でその半数以上が命を落としたという。

この映画では戦争という状況を通してかつて敵味方であった両側の心、人間性にフォーカスを置いている。デンマークとドイツは隣同士で文化や慣習など多くを共有している。距離的には近くても精神的には遠い国、日本と隣国との関係も例外ではない。

ヘイロートラストの会長によると、現在でも多くの人々が地雷で命を奪われているという。例えばスリランカでは年間3000〜4000人が死亡もしくは怪我をしているそうだ。実際の撤去もだが啓蒙活動も大切で、またカンボジアなどでは元兵士に撤去作業を訓練して職を与えたりなど、サステイナブルに行なっているという。2025年までには全世界の地雷フリーのロードマップを掲げているそうだ。

29 April 2018

Machbeth of Mtsensk / ムツェンスク郡のマクベス夫人

@ Royal Opera House
作曲 : Dmitry Shostakovich
演出 : Richard Jones
指揮 : Antonio Pappano

リチャード・ジョーンズの2004年プロダクションのリバイバル「ムツェンスク郡のマクベス夫人」、ニコライ・レスコフの小説を基にショスタコーヴィチが作曲した。初演当初は大成功を収めたが、観劇したスターリンの反感を得、20年以上に渡って上演されていなかった。19世紀後半ロシア、裕福な家に嫁いだカテリーナ、子供が出来ない故虐げられた毎日を過ごす。性的欲望の渦に巻き込まれるカテリーナは愛人と共に夫と義父を殺害する。話はドロドロ、性的にきわどいシーンも多く、そのままだと暗い重たい内容だが、いたるところに笑いのツボも押さえた演出に、多少自虐的な社会風刺オペラとなっている。このカテリーナ、マクベスのシェイクスピアの野心的なマクベス夫人、またファムファタールをモチーフにしているようだが、このオペラではどうも当時の社会に抵抗できず運命の荒波の犠牲者となる女性という印象だ。カテリーナはEva-Maria Westbroek。カテリーナの舅で腹黒いボリスを歌ったJohn Tomlinsonの演技は大いに楽しむことができた。全体的に上手いプロダクションであった。

17 April 2018

Les Liaisons Dangereuses / 危険な関係

by Roger Vadim 1959 France

ジャンヌ・モローといえば悪女、彼女以上にこの役柄がしっくり来る女優は後にも先にもいない。特別美人でもなくスタイル抜群というわけではないがどうも彼女には何か裏があるような表面的ではない何かが感じられる。この作品でジャンヌ・モローと美男子俳優ジェラール・フィリップはお互い束縛しない自由奔放なヴァルモン夫妻を演じている。監督は多くの美人女優と浮名を流したプレーボーイでも有名なロジェ・ヴァディム。

外交官のヴァルモン(ジェラール・フィリップ)と妻ジュリエット(ジャンヌ・モロー)はパリ社交界の花形。この2人の関係はオープンでお互い恋人を作ってそのお互いの情事を聞き楽しみながらも2人は愛し合っていた。スイスのスキー場で知り合ったマリアンヌ(アネット・ヴァディム)にヴァルモンが純粋に惹かれていく事からこの2人の歯車が狂い始める。

ジャンヌ・モロー演じる高慢ちきなジュリエット、そしてプレーボーイを演じるジェラール・フィリップとスクリーンにはこのカップルの強烈で濃い映像が映し出される。そして演出はロジェ・ヴァディムと全て役者が揃った作品だ。アネット・ヴァディムはこの映画の撮影中、ちょうどブリジッド・バルドーと別れたロジェ・ヴァディムと恋に落ち結婚したそうだ。まるでこの作品を体現しているかのようなロジェ・ヴァディムはアネット・ヴァディムの清楚な美しさに惹かれたのだろうか。

15 April 2018

120 BPM / 120 ビート・パー・ミニッツ

by Robin Campillo 2017 France

120 BPMとは1分間120の心拍数、この状態になると冷や汗、体の硬直、頭が機能しなくなり、不安になりと人の体は狂い出す。この映画120 BPMは90年代フランスでエイズ啓蒙活動を行ったAct Upが主題となっている。

エイズの偏見に対して抗議活動を行うAct Up早期メンバーのショーン(ナウエル・ぺレーズ・ビスカヤート)、16歳の時に初めて関係を持ったボーイフレンドからエイズに感染。通常のロビー活動では埒が明かないと血糊を使って製薬会社のオフィスに押し入ったりとショックで注目される方法での活動を推し進めるが要塞は硬い。次第に自身の病状に危機を感じフラストレーションがたまるショーンだがAct Upに参加したばかりのHIVに感染していないゲイのナタン(アーノード・バロワ)と惹かれ合い恋人の関係になる。しかしながらショーンの健康状態は日増しに低下して行く。


当時エイズ患者そしてゲイコミュニティーは差別され、また行政や製薬会社のエイズへの対応遅れの為、多くの者が命を落とした。その多くはゲイの若者達。彼らの限られた時間の中で必死に行政そして製薬会社に訴え、社会に正しい知識を広めようと活動を広げる。その彼らのなんとしてでも生きようとする姿はタイトル通り葛藤でありまた悲しいながらも美しい。当時私はNYに住んでいたが、ここも勿論例外ではなかった。街中至る所でAct Upの活動を目撃し、輸血からエイズに感染した子供の学校登校ボイコットした学校のニュースがTVで流れ、またエイズと共に生き偏見を無くそうと活動している小学校に通う少年にも会う機会が会った。その少年の祖母が「来年のクリスマスも孫と一緒に過ごせるのかどうか分からない」と涙していた事が今でも忘れられない。この120BPMはその当時の社会を映し出した感動的な作品である。監督のロバン・カンピオも当時Act Upに参加していたという、この経験がここまで追求できた素晴らしい作品を作る事が出来たのだろう。昨年度カンヌでグランプリを受賞している。

10 April 2018

Macbeth / マクベス

@ Royal Opera House

作曲 : Giuseppe Verdi
指揮 : Antonio Pappano
演出 : Phyllida Lloyd

マクベス夫人がアンナ・ネトレプコで期待していた「マクベス」、予想通りに素晴らしい舞台となった。ネトレプコはこういう狂気に満ちた役を歌わせると迫力があってなんともいい。またマグダフのユシフ・エイヴァゾフもなかなか。この2人は実生活では夫婦。さっさと殺されてしまったバンコーのダルカンジェロは見た目もよしで歌もよし。多くの評論が述べている様にマクベスのジェリコ・ルチッチの信憑性が多少低いかなと思ったが、パッパーノの指揮と久々に見た正統派の舞台にとても満足度が高いものであった。

9 April 2018

Call me by your name / 君の名前で僕を呼んで

by Luca Guadagnino 2018 USA, Italy

多感な思春期の少年を演じたティモシー・シャラメ、今年度の多くの賞レースで最優秀男優賞にノミネートされていた。BAFTAや米アカデミー賞の会場で受賞アナウンスを待つTV画面に映し出された22歳の彼の姿はとても初々しく印象的で、またポスターとトレーラーから彼ににうってつけの作品だと推測していた。予感通りティモシー・シャラメはすんなりとこの作品の世界観にはまっていたが、辛口にこの作品自体を言わせてもらうとある意味なんとも期待外れなものであった。

80年台前半、アメリカ人17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)は家族と共に毎夏北イタリアの別荘で過ごしている。別荘に招待されたアメリカの大学で教鞭をとる父の生徒オリヴァー(アーミー・ハマー)との一夏の情事を通しエリオは多感な青春期を経験する。

夏と思春期、この2つの結びつきは永遠のテーマ。何が期待外れであったかというと、この手の作品は今までいくらでもあり、この作品が他と違うのは同性愛ということだけ。そしてアメリカ人が好むイタリア田舎の風情がふんだんに映し出され、美術、音楽、芸術が多く挿入されているがどうもマンネリ感が漂い、また特に演出家の個性も感じられずと退屈なものになってしまった、残念。



6 April 2018

Una mujer fantástica / A Fantastic Woman / ナチュラル・ウーマン

by Sebastian Lelio 2017 Chile


今年度アカデミー賞外国語映画賞受賞作品、チリの「ナチュラル・ウーマン」。突然の恋人の死、そしてまたトランスジェンダーであるが故、主人公のマリーナが通過しなくてはならない人生の一ページを描いた。この彼女の心情がスクリーンに映像化され、なんともオリジナリティーのある昇華したものであった。

妻と別れ子供もいる初老オルランドと長年同性しているトランスジェンダーの歌姫マリーナ、お互い純粋に愛し合っていたがオルランドは発作で突然死んでしまう。オルランドの遺族から差別され嫌がらせを受けるマリーナ、葬式に出席する事も拒まれる。

このマリーナを演じたダニエラ・ベガ、彼女自身もトランスジェンダー、またオペラ歌手で役者という多才な女性でありとても印象に残る女優である。監督のセバスチャン・レリオはマリーナを受け身で複雑なバックグランドを持ちながらも強い意志の一人の女性として描いた。またゲイクラブなど耽美な世界も映し出すことでマリーナがトランスジェンダーという特殊な側面を彼女の個性として描かれていた。

一言でこの映画を言い表せば、とても純粋な女性の内面を描いた作品であった。