4 June 2009

Waltz with Bashir

Waltz with Bashir by Ali Folman 2008 Israel

邦題「戦場のワルツ」、2008年アカデミー・外国映画賞ノミネート作品。この部門は日本からの作品「おくりびと」が見事受賞したのですが、下馬評では「戦場のワルツ」が有力候補でした。この作品はアニメーション・ドキュメンタリーで、英題にある「Bashir」とは1982年に暗殺されたレバノンの次期大統領Bachir Gemayelの事です。監督であるAli Folmanの体験を低予算アニメーションで語っています。

ある日映像ディレクターのアリ(声:Ali Folman)は古い友人から26匹の犬に襲われる悪夢に毎晩悩まされている話を聞かされる。アリと友人はこの悪夢は80年代初期に行われたイスラエルのレバノン侵攻にあるのではと考える。この侵攻時に徴兵されていた当時17歳のアリはこの時期の記憶が全くないのに気づく。これをきっかけにアリは当時の友人そして軍での友を訪ね、現実と向き合い出す。そこで見えて来たのは残虐な戦争の姿、そしてパレスチナキャンプで行われた大虐殺サブラ・シャティーラ事件であった。


この作品の前に同じくアニメーションの「Parsepolis」(監督:Vincent Paronnaud , Marjane Satrapi)を見ました。「Parsepolis」はイラン革命前後に生きた若い女性の話です。この「Parsepolis」と「Waltz with Bashir」は基本的に反戦を訴えているのですが、両方共あえてアニメーションという媒体を用いた事が生の役者を使うよりもストレートに意図そして内容が視聴者に伝わったと感じられます。これがこの2作品の成功の鍵だったのでしょう。

以前タイトルは忘れましたが、タイム誌イスラエル/パレスティナ特派員記者が書いた著書を読みました。なにが平和交渉を妨げているのかという内容で、パレスティナの内部抗争と汚職/腐敗、イスラエル内でのタカ派とハト派抗争などが挙げられていました。その中で一番印象に残ったのがイスラエルでのホロコーストを生き延びた人々について。多くの生存者が精神病を患っており長年病棟に押し込められたままの社会の負という存在でしたが、医師達の努力によりPTSD 心的外傷後ストレス障害が認識されてから彼らの立場そしてコンディションがよくなっていたという話です。ちなみにこの「社会の負」という認識は、ユダヤはなぜナチの従うままで反撃をしなかったのか?なぜそのままホロコーストに送られそして生き延びたのか?いや生き延びた事に勇気がある、生き延びた上に精神病になったなど、今ではPTSDが認識されている時代なので理解が高まりましたが、60〜70年代ではジェネレーションや思想の違いによってイスラエル内で色々と複雑な見解があった様です。この中に患者の例が記されていたのですが、この「Waltz with Bashir」のアリと同様、記憶の欠如、作り替えが多く有り、その一つの治療に現実に向き合うというのがありました。またこの「Waltz with Bashir」の中でもある兵隊は自分がカメラマンでレンズを通して戦況を見る事で生き延びたが一旦カメラが壊れてしまってから自身も壊れてしまったというエピソードがありました。そういえば強制収容所での体験を精神分析を中心に初めて執筆された著書に「夜と霧」があります。これは世界的にベストセラーになりましたね。話はずれましたが、この作品「Waltz with Bashir」はアリが自身で行ったセラピーでありそれに私たち見る者も参加しているという事で、なにか強烈に訴える物を感じさせるドキュメンタリーとなったのでしょう。

2 comments:

lotus said...

こんにちわ。イスラムつながりの記事、とても勉強になります。
戦場体験からのPTSDなら"Rambo"や"Deer Hunter"がありますし、ドキュメンタリーも少なくないだろうと思いますが、やはりアニメで作ることで成功しているわけですね。

先日のObamaさんの演説が、少しでもBashirのような人の心を癒すとよいのですが。

claudiacardinale said...

lotusさん、偶然にも「Persepolis」の後にこれを見る事ができました。アニメーションはあまり得意としないのですがこの2作で大きく受け止め方が変りました。ご紹介どうもありがとうございました!

おっしゃる通りにDeer HunterやRamboなどもPTSD関連ですよね、これらも強烈でしたがやはり役者の力量も関わってくるような。アニメのこの2作を見た後どちらかといえば本を読んだ印象だったので、他の要素に邪魔される事なく直球で入って来たのかなと感じた次第です。